本年度は、ドイツのニーダーザクセン州立図書館、ハノーファー大学図書館、アウグスト候図書館において、リヒテンベルクの『ホガース銅版画詳解』およびホガース、間メディア性についての資料収集と、ホガースの銅版画の調査を行った。また、ベルリン自由大学美術史学部のヴェルナー・ブッシュ教授と本研究課題について協議し、テーマの方向性や関連文献について示唆をうけた。そして、『ホガース銅版画詳解』における声や音の記述と、ホガースの絵の物語についての記述について考察した。そこでは特に、レッシングのラオコーン論を参照項として、リヒテンベルクが絵画というメディアによる音声の表現をどのようにとらえているか、またリヒテンベルク自身は言語というメディアによって音声、とくに非分節音をどのように表現しているかという二点を中心に考察した。その結果、リヒテンベルクは絵画による音声の表現は言語と同様に読み解かれるものであるとみなしていることから、リヒテンベルクはレッシングとは異なり、絵画も言語と同じく自然的記号ではなく恣意的記号としてとらえていることが判明した。また、レッシングは言語のなかでもオノマトペや間投詞は自然的記号であるとみなしているのにたいして、リヒテンベルクはそれもまたあくまでも擬似的な自然性にすぎないことを指摘している。そして、言語音という分節音によって非分節音を模倣とは異なる方法で表現し、生成させることを試みており、それによってリヒテンベルクにおいて言語の表現可能性が拡大していることが明らかになった。
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