本年度は3年間の研究の1年目に当たる。本年度の研究計画は、20世紀初頭ロシア諸潮流における新しい人間観、その共通性と多様性を解明することにあった。 多様な潮流における新しい人間観を明らかにするために、マルクス主義から観念論・宗教哲学へと転換した思想家の中ではブルガーコフ、象徴主義芸術理論家では「神秘的無政府主義」の提唱者であるチュルコフとイヴァノフに特に重点を置いた。 異なる諸潮流間での人間観およびそれが立脚する世界観の共通性に関しては、直観哲学に着眼した。従来異なる思想潮流に属するとされてきた思想家たちにおいて、共通して直観哲学が重要な役割を果たしていることを明らかにするとともに、彼らにおける「直観」の理念と、それに立脚する世界観・人間観の比較検討をおこなった。具体的に取り上げたのは、直観主義の代表格であるロースキー、マルクス主義から観念論・宗教哲学へと転換したベルジャーエフの「神秘的実在論」、「存在論的認識論」、さらに象徴主義の理論家であるチュルコフの「神秘的無政府主義」などである。彼らの直観哲学への着眼の根底に、近代西欧的な世界観・人間観への批判があること、また、個的人格を形而上学的実在との直接的結合によって根拠付ける人間観の構築への志向があることを明らかにした。 また、19年度以降の研究に備え、当時の諸潮流間の論争の中で、人間観が論点であるものについて、論争の基本構図の予備的整理をおこなった。このうち、特に、「神秘的無政府主義」に端を発する象徴主義理論家の間での論争については、やや本格的に論争を跡付け、表層に現れない背後の論点を抽出することをも試みた。 こうした本年度の研究成果のそれぞれについて、現在、論文を準備中である。
|