本年度は3年間の研究の2年目に当たる。本年度の研究計画は、20世紀初頭ロシアにおける諸思想潮流の間での人間観の相違点を明確化し、<新しい人間>をめぐるいくつかの特徴的論争の展開を追跡し、論争の論点・構図を解明することにあった。 とりあげた論争は主としで以下のものてある。1.象徴主義内部での芸術理論と哲学面での論争、2.観念論・宗教哲学者(とくにベルジャーエフとブルガーコフ)と象徴主義者(前期・後期それぞれ)との論争、3.象徴主義者・観念論哲学者とマルクス主義者(特に論集『実在論的世界観概説』、『文学の崩壊』の参加者)との論争。 上記の論争はいずれもこれまでは人間の観点から捉えられることはなかった。本研究は、これらの論争がいずれも、近代的世界観と人間観の動揺を背景としたものであること、新たな人間観とそれを裏づける哲学的世界観の構築という共通の課題を持っていたこと、その共通課題の解決の方向性をめぐる論争という側面を持っていたことを明らかにした。 とくに論争1と論争2に対しては、<神秘的アナーキズム>が論争の発端の一つであった点に着目することで、従来とは異なる視角からの分析と意義づけを可能にし、人格の形而上学的裏づけと新しい人間からなる共同体のあり方をめぐる論争として捉えなおした。また論争3については、新しい思想(観念論・象徴主義)と旧来の唯物論(マルクス主義)との対立とする従来の図式的理解を退け、両陣営ともに新たな<実在論>の構築をめざしていたこと、その際、その新たな<実在論>は、主客二元論を解消すると同時に、個人主義を克服し新たな共同体を実現する新しい人間観の礎をなすものと想定されていることを明らかにした。 こうした本成果の成果については、現在、論考を準備中である。
|