本年度は、橋本槇矩(学習院大学)・高橋和久(東京大学)編訳による『キプリングインド傑作選』(鳳書房)が刊行となり、本研究代表者・上石実加子もこのプロジェクトに参画した。キプリング作品の翻訳は複数発表されているものの、このような「インドもの」をまとめた翻訳集の刊行は初めてであり、異文化表象において様々な問題を提起するこの作家の翻訳集は学術的にもきわめて重要であると考える。西欧が、あるいはインド外部の国々が、インド人をインドにおける「ネイティヴ」という言葉でひと括りにしてしまいがちだが、キプリングのインド表象からみえるメッセージは、「インド人というネイティヴは存在しない」というものであった。当初、翻訳者の解説が計画されていたが、ページの関係上、削除せざるをえなくなったので、この解説を発展させて、「英領インドの二重生活」と題する論文を、平成20年5月7日に締め切りの大学紀要に投稿予定である。また、キプリングの翻訳されていない後期作品をめぐる考察は、数作品の翻訳を終え、フランスとイギリスの関係、特に、ナポレオン戦争を経て脈々と続いてきたイギリスとフランスの敵対関係が、第一次世界大戦を経てどのように受け継がれているのかをその背景にもつ作品群にテーマを絞りつつ、平成20年9月13日に開かれる日本英語文化学会において学会発表することが決まっている。引き続き、研究につとめたい。
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