本年度は基礎研究として、資料の収集と分析・整理を主に行った。調査の対象となった資料は戦間期イギリスの文学作品、その周辺の文化論、そしてそれらを対象とする現代の研究書である。特に、F. R. リーヴィスとQ. D. リーヴィス(F. R. and Q. D. Leavis )の文化論とその周辺に関する研究が進捗し、それらの言説がイギリス国内の階級状況・文化状況への反応であるとともに、イギリス帝国の世界における位置の変化の帰結であることを示すことができた。 また、論文として成果を公表するにはいたらなかったが、イギリスにおける人類学・民俗学と文化との関係についての研究が進捗し、ジェイン・ハリスン(Jane Ellen Harrison)らの考古学・人類学者の言説と、当時の文学、そして文学者の「文化」に対する観念の形成が不即不離の関係にあることが発見された。この主題については学会における口頭発表を行っており、来年度論文として公表する予定である。 同時に、上記の人類学言説、そして都市文化の交差点に位置する作家として、現在は全く知られていないホープ・マーリーズ(Hope Mirrlees)という作家に注目し、研究を進めた。マーリーズに関しても研究経過を口頭発表にて報告しており、来年度論文化する予定である。 研究を進めるにしたがって、本研究課題にとって戦間期の都市論・田園(田舎)論が重要であることが明らかになってきた。本研究が中心的対象とするモダニズム文学を都市文学として見る研究はこれまで盛んになされてきたが、その田園との関係、特に同時代の都市計画などとの実定的な関係についてはまだ十分に研究がなされていない。本年度は、都市計画家のエベニザー・ハワード(Ebenezer Howard)らの著作を調査した。これらの調査結果は来年度口頭発表する予定である。
|