戦間期イギリス文学における帝国の縮小と福祉国家化という問題を、特に都市と田園にまつわる諸言説め検討という形で進めた。具体的には、主にヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』と、E.Mフォースター『ハワーズ・エンド』の二作品について検討した。『ダロウェイ夫人』は田園主義的な言説に対して、都市の経験を称揚するモダニズム文学と捉えられることが多いのに対し、この作品が別の形での田園希求(新たなイングッシジュネスの模索)を行っていることが明らかになった。『ハワーズ・エンド』も同様に、田園主義言説に深く関わる作品であるが、近年のイングリッシュネスにまつわる研究を参照するとき、この作品にはイギリス帝国とその没落、田園回帰の欲望以外に、萌芽的な形態でのグローバリゼーションを読み取れることが明らかになった。文学作品めみならず、戦間期の田園保存言説や都市計画についての調査を進めたが、そこに見られるのは単純な田園回帰の呼び声ではなく、進むイギリス帝国の崩壊と萌芽的なグローバリゼーション(場合によってはアメリカナイゼーションと区別がつかない)との交渉であった。こういった諸要素は、戦前の『ハワーズ・エンド』にすでに見られたのである。 一方で、文化理論全般について、特に批評家ウィリアム・エンプソンおよびレイモンド・ウィリアムズに関する研究も進めた。特に後者は、現代の文化理論においても変わらぬ有効性を持つことが明らかになり、本研究課題の基礎研究として大いに役立つものである。
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