本年度は研究課題をめぐって、特にウァーシニア・ウルフ、ホープ・マーリース、ウィリアム・エンプソンについての研究を進捗させ、研究結果を発表した。 ヴァージニア・ウルフについては、近年のアヴァンギャルド研究の成果を取りこみつつ、イタリア未来派の作品や活動とウルフの作品を比較し、ウルフにおける都市の美学に新たな光を当てる試みをした。 ホープ・マーリーズについては、研究代表者が編者の一員となった著書『転回するモダン』にマーリーズの詩『パリ』を検討する論文を掲載した。『パリ』は典型的なアヴァンギャルド詩のように見えるが、その人類学的リファレンス(特にジェン・ハリソンの関係)をたどりつつ読むと、ヴァージニア・ウルフにも通底するような「都市の田園化」、とでも呼ぶべき志向をもっていることが判明した。これは、本研究課題の中心をなす、モダニズム期の英国的なものへの回帰の問題に、深い洞察を与えるものとなった。 ウィリアム・エンプソンについては、1935年出版の『牧歌の諸変奏』について考察を行った。この批評書はプロレタリア文学批判から始まって牧歌についての考察を行っているが、そこには透明な代表=表象を拒み、代表=表象が不完全であることに踏みとどまろうとするエンプソンの姿勢が表れている。イギリスにおける政治的変動(ナショナリズムへの傾斜とラァシズムとの対決)を考えるとき、牧歌を扱うこの批評書の政治性が明らかになる。 以上、本研究課題の最終年度である本年度は、研究成果の発表に重点をおき、かなりの成果を挙げたと評価しているが、口頭発表のみにとどまり論文化されていない研究もあるため、今後論文化を進めていくことになる。
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