この研究は3年を期間とするものであり、初年度である本年度は情報収集を中心にして研究を進めた。「修道女」が文学テーマとして流行したのは19世紀初期から中期にかけての英国であり、女性詩人たちの問で「修道女」をテーマとした大規模な連歌ともいうべき作品群が生み出された。なかでもクリスティーナ・ロセッティの功績は注目に値する。ロセッティはこのテーマに最も執心した女性詩人で、同時代の女性詩人たちと作品上の連繋を持つのみならず、20世紀になってその存在を初めて知られるイエズス会士G.M.ホプキンズとも文学上の影響関係にあった。 本年度は、ロセッティ作品を主軸として、19世紀英国文学における「修道女文学」とでも名づけるべき作品群の発掘を試みた。アイルランドおよび英国で資料収集を行い、「修道女」をテーマとした文学作品の所在を明らかにし、オリジナルが入手できない作品については、図書館等でマイクロフィルムを閲覧して内容の確認を行った。その過程で、17世紀にも「修道女」を主人公とした一連の書簡体小説群が存在することが判明した。今後さらに資料を入手し、17世紀の小説におけるテーマの取り扱い方と19世紀の詩文学におけるテーマの流行とを比較・検討して、この研究を進めていく計画である。 本年度の研究成果の一部として、以下の論文2点を公刊した。1点目は"A Transition of the ‘Nun'Image in Gerard Manley Hopkins"これまで論じられたことのなかったロセッティとホプキンズの影響関係についてまとめたものである。2点目は、「女性詩人の葛藤-クリスティーナ・ロセッティと金子みすゞ」-ロセッティの影響を受けた女性詩人の一人である金子みすゞを取り上げ、比較文学的観点から両者の作品を論じ、ロセッティ作品における「修道女」のテーマを新たな側面から掘り下げたものである。
|