本研究は3年を期間とするものであり、2年目である本年度は、初年度に引き続き情報収集を中心にして研究を進めた。19世紀英国で「修道女」が文学テーマとして流行する契機となったのは、ヨーロッパの旧教国で流行した一連の小説群であったことは初年度に確認した。本年度は、旧教国のなかでも、いわゆる英国人のグランドツアーの目的地であり、英米文学作品の多くで舞台となったイタリア、とりわけヴェネツィアで、「修道女」をテーマとした作品群の発掘を試みた。修道女のテーマに最も執心したクリスティーナ・ロセッティはイタリア系英国人であり、彼女の作品の素材を検討するうえでも、イタリアという文化的背景の探究は不可欠であった。また、現地ではさまざまな教会や美術館を訪れ、絵画における修道女の表象という問題にも取り組み、イタリア絵画が英国19世紀の絵画における修道女のテーマの流行にいかに結びついていたのかを検討した。今後さらに資料を入手し、詩文学のみならず視覚的表象面においても「修道女」というテーマを包括的に捉えて、この研究をまとめていく計画である。 本年度の研究成果の一部として、以下の論文・図書を公刊した。1点目は"Beyond the Pre-Raphaelite Influence: Young Hopkins's Poetic Progress"-難破した修道女を題材とした「ドイッチュラント号の難破」に至るまでの若きホプキンズの軌跡を、ロセッティ兄妹をはじめとするラファエル前派との影響関係から論じたものである。2点目は『シルヴィア・プラス愛と名声の神話』-初年度に取り上げたロセッティの修道女作品が抱える「葛藤」という問題を、20世紀女性詩人プラスの観点から掘り下げ、19世紀女性詩人と修道女文学の発展系のひとつとして、プラスの作品を読み直したものである。3点目の『ヨーロッパ・アメリカ文学案内』では、初年度に「修道女」のテーマを比較文学的観点から検討したものを、さらに児童文学という枠組で捉えなおし、英国文学の一面として論じた。
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