本研究では、ナシ語口語資料のデータベース化を行うため、中国雲南省のナシ族の居住地において、ナシ語のいくつかの方言の発音を調査した。平成18年8月〜9.月には、雲南省内の昆明市、麗江市、廸慶チベット族自治州香格里拉県、同自治州維西県に滞在し、複数のナシ族のインフォーマントについて、ナシ語の基礎語彙の発音を調査した。 この調査においては、香格里拉県内では、三〓郷、東〓郷、洛吉郷などの方言のように、先行研究においてナシ語の「標準音」とされる麗江市の大研鎮方言とかなり差異のある方言が見られたが、一方、維西県での調査においては、今回調査したインフォーマントに限っては大研鎮方言と大きく異ならない結果となったため、今後も継続して調査を進めることとした。 また、本研究ではすでに出版されているナシ語口語資料の電子テクスト化を進め、現地での語彙調査では見つかりにくいナシ語独特の熟語について考察を行い、上記の現地調査期間中のナシ族への聞き取りの結果も踏まえて、その結果を論文として発表した(「ナシ(納西)語熟語の基礎的研究-動詞熟語編-」)。ナシ族宗教経典の言語資料についても、すでに出版されているものをナシ語のローマ字表記に変換して電子化を進めた。今年度は特に、ナシ族の創世神話のテクストについてそれを行い、その一部を用いて、複数の経典のテクストを相互に比較することで、ナシ族の宗教経典の性質を考察した(「中国少数民族宗教テクストの-研究-ナシ族のトンバ経典-」)。 さらに、上記の現地調査の期間における、ナシ族出身学者への聞き取りを基にして、これまで十分に報告がなされていない2000年以降のトンバ教の現状についても報告した(「ナシ(納西)族トンバ(東巴)教の現状について-2006年の調査から-」)。
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