研究概要 |
平成18年度の研究実績は、(1)中古漢語資料の選定、(2)疑問代詞体系の研究、(3)揚雄『方言』についての研究に分類される。 (1)の資料の選定については、国際シンポジウム「漢訳仏典の言語の様相」(2006年11月11-12日,於創価大学)において「略談《六度集徑》的口語性-以疑問代詞系統爲例」と題する口頭発表を行い、中古期に成立したとされる『六度集徑』言語について、現存の文献言語が三世紀当時のものを大凡保存していることを『徑律異相』所引の箇所との対象により確認した。さらにその言語を同じ中古期に成立した『中本起徑』『過去現在因果徑』『雑宝蔵徑』と比較することにより、『六度集徑』言語が三世紀の建康方言を反映している可能性を指摘し、言語資料としての重要性を明らかにした。 (2)の疑問代詞体系の研究については、上古中期漢語における禅母系疑問代詞「孰」「誰」の体系をとりあげ、両者が『論語」『孟子』の特定の文型においては、「孰」は主語、「誰」は目的語としてのみ生起する傾向がみられることを指摘し、このような統語的相補分布は「統語的曖昧性を軽減しようとする欲求」により引き起こされたものであると主張した。さらにこの統語的相補分布の具体的な生成メカニズムについての仮説を展開した(「上古中期禪母系疑問代詞系統中句法分布的互補現象」『漢語史学報』第六輯)。 (3)の揚雄『方言』の研究については、従来の『方言』にもとづく方言区画論の欠点を指摘し、隣接する地域間の言語的距離を、共通の語彙が分布するか否か、異なる語彙が分布するか否かという二種の指標によって計測する方法による区画論を、中国で刊行された揚雄『方言』研究の研究論文選に発表した(「漢代方言中的同言線束-也談根據方言的方言區劃論」『揚雄方言校釋匯證』)。
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