本研究は、認知言語学に基づいてアイヌ語基礎文法を網羅的に分析・記述し、その結果を汎用性の高い資料として提供することでアイヌ語の研究と学習・教育に寄与することを目的とする。(1)基礎文法が伝統的なアイヌ語学でどう扱われてきたかを総覧し、(2)それらの扱いが理論言語学でどう位置づけられるかを同定し、(3)認知言語学に基づいてどのような観察・分析・記述が得られるかを明らかにして、(4)その結果は、一般言語学に共通の用語・概念を用いた文法書・文典の形にまとめてアイヌ語研究の進展に資すると共に、基礎文法の概説書・参考書を編集してアイヌ語の学習と教育に貢献することを目指した。 一昨年度に上記(1)を、昨年度は(2)を達成すると共に(3)に取り組んだ。本年度は、これら(1)から(3)の成果を踏まえて、(4)にの実現に向けて具体的な調査と作業に取り組んだ。 本研究の一年目に作成した『アイヌ語学研究総覧』及び過去の研究で作成したコーパス並びに辞書草案等をアイヌ語研究の従事者や理論言語学を専門とする研究者に提供し、それぞれの立場から「基礎文法」に取り組んだ論考を提出してもらうことで二年目に作成した『アイヌ語学と現代の言語理論』の成果を取り入れて、(4)に掲げた文法書・文法参考書の執筆と編集を行い、印刷と製本を残してほぼ完了した。 また、文法書としては、(i)インデックス式文法表・活用表中心のもの、(ii)文典的なもの、(iii)語法辞典もしくは事典的なもの、(iv)教科書的なものの四つのどの形式がもっとも有効かを実践例から判断するために、ウェールズ語の言語復興を手本にしてきたバスク語についての調査を行い、(i)を(iii)に取り込んだ形のものを学習用文法書として用い、(ii)の内容を扱いながらも基本的には(iii)の形式を取るものを研究用の文法書とすることが望ましいことを確認した。
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