本研究は、佐々木の第二言語習得と心理言語学を融合させた視点から示した、「第二言語及びバイリンガル話者における言語と認知プロセス(cognitive processes)の関連性」の研究を、更に発展させることを目的とし、新たな実験方法の導入とデータの蓄積を行った。 上記の先行研究で使用した視覚単語認知実験に加え、新たな実験方法に、第一言語の言語記憶実験方法として80年代に開発され近年の第二言語習得研究において注目されつつある、リーディングスパン・テストの中級レベルの英語学習者版を開発し、導入した。これにより、文字・単語レベルのボトム・アップ的な読みのプロセスとともに、文・意味理解レベルのワーキング・メモリーを含む認知プロセスを検証する方法が試行された。リーディングスパン・テストは当初紙ベースで導入したが、反応時間および読み上げの記録ができるオンライン用を開発した。さらに、「多読」の認知的効果についてリーディングスパン・テストを使って調査した結果、日本人初中級英語学習者の多読活動と言語理解・記憶の伸びは、統計的に実証された(研究発表参照)。また「シャドーイング」「語彙テスト」も試行した。 被験者としては、日本人学生(初中級レベル英語学習者)、日本人英語話者(上級レベル、イギリス在住)、フランス人学生(初中級レベル英語学習者)のデータ収集を行い、被験者グループごと及び実験ごとのデータ分析を行った。次年度は、このデータおよび追加のデータをもとにバインリンガル・プロセスモデル構築を試みる。 以上、本年度の研究実績をまとめると、(1)複雑な読みのプロセスを多角的に見るための複数の実験方法を開発した。(2)それらの実験の最適な組み合わせの例を示唆した。(3)「多読」や「シャドーイング」といった英語教育で使われるタスクが第二言語発達に与える言語認知的な効果を客観的に明示する方法を開発できた。
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