本年度は、昨年度開発した発音習得のためのドイツ語音声練習ソフト(ATR-CALL-Deutsch)について、学会(日本独文学会、日本音響学会)にて概要を発表し、視覚フィードバックを用いた練習ソフトによる発音練習結果について論文として発表した(「ドイツ語教育」)。ドイツ語発音練習ソフトに関しては、昨年度から行なったワーキンググループの検討結果を生かして、男性・女性の声の選択や、「練習のポイント」の表示ができる機能を追加し、さらにドイツ語音声を自律的に学習できるようなプログラムを構築した。この練習ソフトを使用したドイツ語学習者へのアンケートを実施したところ、回答者の80%以上がドイツ語の母音や韻律の習得に有効であるとしており、概ね本研究の結果が総合的に生かされるものとなった。特に韻律の学習については、高い満足度が得られた。練習前後の音声を収録し、音響分析を行なったところ、これまでに決定的な練習法の無かった、ドイツ語前舌円唇母音に関しても一定の練習効果が見られることが分かった。ただし、学習者が難しいと判定する課題文や母音、子音と、実際にネイティブスピーカーの発音から逸脱しているものとは、ずれがあることも分かった。具体的には日本語の音で代用されてしまうi、u、eなどの母音や、平叙文におけるピッチパターンなどが、逸脱しているのにも関わらず学習者には難しいと感じられていなかった。また、この練習ソフトに関して、ドイツ、イタリアのドイツ語教育機関においてデモンストレーションを行なうとともに、日本人ドイツ語学習者のドイツ語音声学習の困難さについての議論を行なった。 さらに、これまでに蓄積してきたドイツ語、日本語のMRI動画データを整理し、日本語のデータと比較することで、調音の特徴を視覚的に示すことのできる教材を作成した。この教材については、ドイツ語教育研究会にて発表し、授業への活用方法などについて、議論が行なった。
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