平成18年度は「聲音韻譜」の成書過程に関わる調査・研究を行った。夏期休暇中に台北市を訪れ、故宮博物院所蔵の明抄本および台湾師範大学に所蔵の清抄本を対象に調査を行った。具体的には、東京の静嘉堂文庫に所蔵される清抄本のコピーを持参し、上記二種の資料にみえる収録字すべてについて逐一比較した。台湾師範大学本については、全冊複写は規定により不可能であったが、必要と思われる箇所について、当該機関の許可を得て、デジタルカメラでの撮影を行った。この台湾師範大学本の従来における評価はあまり芳しいものではなかったが、実際に見てみると、たしかに資料そのものは劣化して見栄えこそ良くはないものの、その内容は確かな校勘を経ていて、故宮博物院本にもひけをとらぬほど誤りが少なく、精度が高いという印象を受けた。またその収録字について、静嘉堂文庫本とのみ共通する箇所が非常に多く、成立過程において関連を有している可能性をうかがうことができた。帰国の後には東京に赴き、宋代の等韻学について記した盧宗邁『切韻法』を閲覧し、複写・撮影を申請して書影を入手した。 最終的には、如上の調査を通して判明した事柄をまとめ、年度内に論文化する予定であったが、最近になり台湾の研究者による関連論文を著者当人より入手することができたこともあり、成果の発表は次年度に持ち越すこととした。台湾師範大学本の内容を反映させた校本もほぼ完成しているが、これも次年度早々に公刊することを考えている。
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