場面や相手や発話内容などに応じて選択される呼称表現のポライトネス・ストラテジーは日韓両言語の間でどう異なるかをアンケート調査に基づいて検討した。調査では、「呼称表現(親族名称・実名の2種類)」「会話場面(授業中・雑談の2種類)」「親疎関係(親しい・親しくないの2種類)」「聞き手との性差(異性・同性の2種類)」「話し手の性差(女性・男性の2種類)」の5つの説明変数で、日本人と韓国人大学生の先輩に対する呼称の適切性判断を予測する決定木分析を行った。その結果、日本の大学生は、場面や相手によってその表現形式は少し異なるものの、先輩に対しては実名を用いるのが一般的で、親族名称を用いることは適切でないと判断する傾向が強かった。一方、韓国の場合は、上下関係や発話の内容に関係なく、全体的に先輩に対しては親族名称を用いるのが適切で、実名を用いるのは適切でないと判断していることが明らかになった。韓国人の先輩に対する「親族名称」と「実名」の使用に関する適切性判断に及ぼす要因をより具体的にみると、「親族名称」には親疎関係が最も影響しており、その次に話し手の性差が影響している。また、「親族名称」の使用は、親しい間柄で、特に話し手が女性の場合が最も肯定的に判断されていることが分かった。一方「実名」の使用には、場面(授業中・雑談)の違いが最も強く影響し、その次に親疎関係が影響していることが分かった。以上のことから、韓国人は、「親族名称」使用は相手との距離を縮めるための呼称として、「実名」はインフォーマルな場面よりはフォーマルな場面でより相手と距離をおくための呼称として用いられていることがうかがえる。
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