研究概要 |
平成18年度は、日本語の尊敬語に焦点を当て、その統語的・形態的研究を行った。特に、今年度は尊敬を表す2つの形態素(「お〜になる」と「〜られ」)の類似点・相違点について詳細に考察し、日本語の尊敬語は一致現象の1つとして見なすことができるかどうかという問いに対する一つの答えを提示しようと試みた。その結果、以下のことが明らかになった。 1.Suzuki(1989),Toribio(1990)などで論じられていることに反して、「お〜になる」の形態的構造が「お+名詞(動名詞)+に+なる」という構造ではなく、Harada(1976)が論じていたように、「お+動詞+に+なる」という構造が正しいということが明らかになった。 2.日本語の尊敬を表す形態素「お〜になる」は、従来、Tの位置にあると考えられてきたが、実はかなり下の位置に基底生成されているということがわかった。 3.従って、「お〜になる」という形態素は一致を表す形態素として見なすことができないということがわかった。 4.それに対して、尊敬を表す別の形態素「〜られ」のほうは、「お〜になる」とは異なる振る舞いを示すことから、「お〜になる」と同一の位置にないということがわかった。 5.その結果、「〜られ」のほうがTの位置に存在するということがわかった。 以上の結果より、従来考えられていた尊敬の「お〜になる」は一致を表す形態素ではないが、「お〜られ」のほうは一致を表す形態素であるということが得られた。そのことにより、日本語の尊敬は一致現象の一種であるという新たな証拠が発見された。
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