本研究は類型論的に近い二つの言語(日本語・韓国語)の統語構造を比較することにより、母国語話者の言語知識の理論の中核をなす、自然言語の規則性をつかさどる原理を規制するパラメータを、類型論的に比較的近い言語の文構造の比較・考察を通して解明することを目標とする。 平成20年度は、上記目標と課題に従い、(I)二格付与(II)ガノ交替について、格交替と線状化についての考察をまとめた。 (I)に関しては、日本語の与格(ニ格)は主格(ガ格)や対格(ヲ格)と異なり、名詞の格素性を認可する能力が欠如しているという仮説を提唱し、研究協力者のリチャード・ラーソン教授(ストーニーブルック大学)の協力の下、日本語の二重目的語構文も英語およびその他世界の諸言語同様、動作の対象となる名詞句が動作の着点を表す名詞句よりも文構造で高い位置に生成されるという分析を提示し、国際学会で発表をした。(II)に関しては、日本語固有の「主節の文焦点にガ格を付与する」という規則に基づき文の主要部の動詞性が弱まる連体形が出てくる環境(関係節および名詞の補文)においては焦点の素性を持たない名詞句は左端から循環的に属格(ノ格)が認可され得ることを示した 上記の研究発表の知見の下、類型論的に近い言語間の差異を規定するパラメータは、格付与に関しては与格の格認可能力にあり、主格と属格の交替に関しては焦点の標識のメカニズムの相違にあることを解明した。
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