本研究では、地域社会の構造的特性(階層差や都市化の程度、それに伴う生活様式)や志向性(規範意識、人の気質)を「社会フィルター」と呼び、ある種の言語変化が、この「社会フィルター」を介して生じると考える。こうした想定のもと、「社会フィルター」を介した言語変化の事例を分析することにより、方言差が生じるプロセスを明らかにしていく。 平成20年度は、秋田の地域特性を反映した方言の活用例を分析し、「現代方言とフォークロリズム-秋田の事例から-」と題して、日本言語学会(「危機言語」小委員会)主催公開シンポジウム「日本のなかの危機言語-アイヌ語、琉球語、本土方言-」(東京大学)において発表した。また、秋田において頻繁に行われる「県民性」言説とそこに利用される方言の事例を分析した「秋田における「県民性」言説の創出と再生産」を『秋田大学教育文化学部紀要人文科学・社会科学部門』第64集に掲載した(共著者 : 石沢真貴・近藤智彦)。 一方、地域性の特性が言語運用を含む生活文化に見出される事例として、近世には北前船の寄港地として栄え、近代には木都として繁栄した秋田県能代市においてフィールドワークを実施した。能代市および隣接する八峰町は、かつてニシン漁で北海道への出稼ぎがさかんであった。そのため、北海道沿岸部(松前・江差など)との交流の記憶が、現在の生活文化の中に痕跡を留めている。その検証のために、函館・松前・江差においてもフィールドワークを行った。能代市および北海道におけるフィールドワークの結果は、現在報告書にまとめているところである。
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