本研究は、現代日本語の構文体系を明らかにすることを目指して、その手がかりとなる言語現象の分析を行うものである。本年度は、構文交替現象に着目し、「あふれる」等の動詞が構文交替を引き起こす仕組みについて考察した。構文交替とは、一つの動詞が、類型の異なる複数の文を実現するという現象である。構文交替を引き起こす動詞の種類は、通常、交替のタイプによって異なっている。しかし中には、同じ動詞が複数のタイプの構文交替を起こすという、興味深いケースもみられる。「あふれる」はその典型であり、三種類もの交替を引き起こす。本研究では、「あふれる」が起こす三種類の交替の関係を明らかにし、また、他の交替動詞と比較しながら「あふれる」の意味的特徴を分析して、「あふれる」がなぜ三種類の交替を引き起こすのかを明らかにした。さらに、この分析を通して、個々の交替の記述だけでなく、関連する複数の交替を体系的に記述することの重要性を指摘した。以上の成果を、論文「構文交替の観点からみた「あふれる」の分析」(『香椎潟』52号、福岡女子大学国文学会)にまとめた。 以上のように、構文交替を体系的に記述するという視点の重要性が明確になったことで、申請書に「予想される結果と意義」として記した通り、構文交替が、従来考えられてきた以上に、構文体系を研究するための手がかりとして大きな意味を持つことが、明らかになった。
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