本年度は、関係節(以下、RC)における先行詞と関係代名詞の結合に関わる文法化根底にあるメカニズムを分析することに力を注いだ。分析の手順は以下のとおりである。 まず指示詞(demonstrative)由来の関係代名詞の発達を概観し、NRRC>RRCという流れで歴史的変化が起こっていることを確認した。その際、議論の的となることも多いOE peの文法的地位について、subordination markerからrelative pronounに発達したと言うよりは、逆の文法化パスをたどったと考えるほうが妥当性があるという結論を、他言語における文法化を考察することにより引き出した。また、wh-セット関係代名詞の発生を可能にしたコンテクストについても考察を行った。さらに、子どもの言語習得過程から得られる知見・人間言語に見られる一般的傾向からRCの文法化を捉えなおし、コミュニケーション観点からの分析をまとめた。 言語表現は概念化者である話し手の何らかの視点をコード化するが、主観化(subjectification)が進むと、このコード化された視点は、聞き手に対して何らかの注意を合図する間主観化段階を経る。RCの文法化においては、話し手の意図する例示(instance)に聞き手が成功裏にメンタルコンタクトをとる可能性を高めるべく、聞き手が探索すべきスコープ範囲を縮めあげるという配慮を話し手が行うことが、NRRC>RRCというパスの原動力の一つとなったと考えられる。すなわち、英語の関係節の文法化には、話し手・聞き手の視点の共有作業という言語コミュニケーションにおける原理が絡んでいる可能性があることを指摘した。
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