本年度の研究は、次の二つの観点から、フェイズ理論に対してサポートを与えるという試みを行った。 第一に、Chomsky(1998)においては、あるフェイズPH_iができるとその前のフェイズPH_<i-1>にスペルアウトが適用され、PH_<i-1>のdomain内の要素が解釈/音韻部門へ送られると仮定されている。この仮定によって言語計算の計算量を減少させることが可能となる。一方、本研究は、Chomsky(1998)を修正し、PH_<i-1>のdomain内の要素は、文字通り解釈/音韻部門へ送られるのではなく、狭義の統語部門(narrow syntax)にそのまま残るが、統語的には不活性(inactive)である(つまり、統語計算上、不可視(invisible)である)と提案した。この提案の下では、Chomsky(1998)の提案と同様、計算量の増大を緩和させる効果をもたらしながら、Chomsky(1998)では説明が困難なデータに対して原理的説明を与えることが可能となる。 第二に、従来、*What_i did who buy t_i ?の非文法性は、上位の位置にある主語whoではなく目的語whatが移動したためであると説明されてきた。しかし、フェイズ理論によれば、主語whoがTP指定部に異動された段階で、目的語what訂が含まれるフェイズvP内部の要素は、統語操作適用にとって不可視領域である。したがって、上記の文の非文法性は、局所性条件等を用いなくても、フェイズ理論のみで説明可能である。
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