研究概要 |
本研究課題は、外国人の日本語習得過程における読解過程の解明、特に、異なる言語間、文化間、さらには日本語習熟度の違いにおける読解ストラテジーの解明を行うものである。そして、文章読解において得られた知見を、文章構造としての「日本語らしさ」を求めた文章作成に活かそうとするものである。今年度は、本研究課題の最終年度であったので、文章読解および作成についての全体的見通しを得ること、そして、それを出来るだけ多くの人(研究者および学習者)に向けて公開することを図った。そこで、書籍として出版することにし、原稿は既に入稿済みである。その書籍の中で、文章読解の仕組み、文章読解のモデル、文章読解に影響する認知のしくみ、文章読解と教育、文章読解の個人差および文化差について分かりやすく解説した。文章読解には、文章要因、読み手要因、そして文章と読み手の相互作用の三者が関わっている(文章理解の三要因, 甲田2008)ため、文章読解プロセスの解明のためには、これら相互の要因について全体的見通しを得つつ、研究を進める必要がある。この読解に影響する要因の見通しを甲田(2008)としてまとめ、文章研究の見通しを示した。また、文章作成については、文章読解と比べ、研究の蓄積が学界においてもまだ少ないが、文章読解研究の知見から、学習オーガナイザーや概念図、階層マップ、知識構成方略等が文章作成に用いることができることを甲田(印刷中)でまとめた。これらの手法は、学習者の既有知識の活性化を助け、概念図や表、階層マップは文章を理解する際に、文章の全体的見通しを得やすくさせる効果があるとして開発されたものだが、文章を読解するためだけではなく、作文教育においても有効であることを示した。高度な文章作成能力のためには、読解能力と作文能力を対比させながら教育は進められるべきであり、読解教育の手法を、作文教育に活かす可能性を検討した。
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