研究概要 |
2006年〜2007年の2年間の基礎研究を通して、(1)今までの同じ授業における学習者コーパスを分析した結果抽出された「学習者の頻出動詞」を学習のきっかけとし、(2)フレーム意味論の考え方を軸に例文を体系的に提示する方法を確立し(能登原,2007)、(3)学習者の動詞の意味の知識の再構築を促すことを目的とした「コンコーダンスの提示順序」と「ブログ形式収斂型Data-Driven Learning環境」を確立することができた(能登原, 2008)。ところが、これと同時に、(1)学習のきっかけとなる「学習者の頻出動詞」の妥当性・信頼性・実用性の問題、(2)フレームを拡張していく方向の教育的意義の問題、(3)実用的で効果的な導入方法の問題、の3つの問題が残った。 そこで、本研究の最終年度の予定(ブログ形式収斂型DDLの環境を実証する)を変更し、この3つの課題を解決すべく、近年公開された2つの大規模日本人英語学習者コーパス(JEFLL)を用い、自由英作文における日本人英語学習者の「頻出動詞」と「それに伴う語群」の特徴を再確認する方向で研究を進めることとした。そして、将来、より良い環境で実践研究を進められるようさらに基礎的研究を進め、本研究を終えることとした。 研究の成果として、 (1)2008年度4月から9月にかけて、動的用法基盤モデルの習得観を整理し、事例から抽象化していくいろいろなレベルで、最も抽象度の高い構文知識(文系とイベントスキーマのペア)に注目した。そして、英語母語話者の典型的なイベントスキーマとそれに伴う文型をRadden & Dirven(2007)の枠組みを参考に考察した。 (2)9月では、BAAL(英国応用言語学会)にて、世界レベルのコーパス研究の動向を確認し、動的用法基盤モデルに基づく言語習得観の立場で進めている研究とその成果を教育へ応用していく研究を確認していった。 (3)10月から3月にかけて、JEFLL Corpusを使って、「日本人英語学習者のイベントスキーマと文型への親密度」の分析を行った。 この分析結果は、第33回英語コーパス学会(4月25日神戸大学)にて発表した。本研究から、どの動詞を軸にどのイベントスキーマおよび文型を、どの順で教えるべきかといった「例文提示順序」を整理することができた。
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