本年度は、前年度に引き続き、日本古代の帳簿資料とその周辺の文字資料についての調査・検討を行った。本年度は、正倉院文書に続き、東大寺の寺領に関わる帳簿資料を多く含む東南院文書の紙焼き写真を購入し、活字からだけではわからない帳簿資料の情報を収集した。現在データを整理中である。次に、木簡などの出土文字資料の実地調査を行った。調査先は、福岡市元岡遺跡出土の7世紀〜8世紀の木簡の調査、滋賀県西浅井町塩津港遺跡出土「起請札木簡」の調査、奈良文化財研究所における、平城宮出土木簡の調査など、多方面にわたった。とりわけ、塩津港遺跡出土の「起請札」は、古代末から中世にかけての運送業者による起請文の作成の実態が明らかになったことから、古代における文書の役割を考える上でも画期的な資料といえる。また、山形県梅野木前1遺跡出土の平安時代の木簡の解読を行い、この木簡が「龍王」の文字を含む地鎮のために作成されたものであることを明らかにした。本資料は帳簿資料ではないが、古代地方社会における龍王信仰の受容、呪符木簡の展開といった問題を考える上で示唆的な材料となった。このように本年度は、帳簿資料の検討とともに、その周辺の文字文化の実態を探る上で貴重な成果を得ることができた
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