本年度はおもに3つの方向から研究を進めた。第一に、天正18年(1590)以前、駿河・遠江・三河・信濃・甲斐という東海・甲信五カ国を領有していた徳川家康の農村支配と土地制度、とくに天正17年(1589)から翌年にかけて行われた総検地の特徴などを検討した。その成果の一部は、近年の研究業績の書評のかたちですでに発表した。従来私が検討してきた、畿内近国における豊臣秀吉の検地や農村支配と比較するうえで重要な論点を得ることができたので、今後も引き続き検討を深めてゆく。 第二に、信州南部の下伊那地域に関して、飯田市歴史研究所に収蔵されている文献、史料写真帳や古文書などを調査した。なかでも虎岩郷の平沢文書については豊かな研究蓄積があり、収集した史料の分析と並行してそれらの検討も行った。まず本年度は16世紀末の検地帳やその他の土地帳簿などによって、同郷の土地制度の特質などを分析した。結果として、従来の諸研究にはいずれも、細かな点ではあるがかなり重要な誤謬や不足があることがわかり、当郷の社会構造と土地制度の全貌・本質を捉え切れていないことが判明した。来年度以降も引き続き重点的に検討を進めたい。 第三に、関東北部(下野)に関して、栃木県立文書館に収蔵されているいくつかの史料群を調査した。その結果、下野地域に関しては史料の制約などから研究をすぐに進捗させるのはやや難しいことが判明したため、今後の課題として残し、上記第二(および第一)の方向を重点的に進めてゆくことにしたい。
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