平成18年度は、本研究の主要な対象である通詞の社会的基盤について検討を行った。近世の長崎において対外関係の通訳者として交渉過程の最前線にあったオランダ通詞は、現代の外交交渉における通訳とは異なり、交渉そのものの当事者的性格を持ち、また文化面においては最先端の学識を有し欧米の学問の媒介者たる点が先行研究で指摘されてきた。しかしそのような活動を展開する上で、その社会的基盤=再選山の基礎条件、あるいは通詞の家としてまた集団としての経済的・政治的位置付けについては先行研究が少なく、検討の必要があると本年度の課題を設定した。したがって、本年度はその観点から日本側の史料収集と分析を行った。史料の調査は、長崎歴史文化博物館の長崎の都市関係と通詞関係の史料、および佐賀県図書館所蔵の長崎と佐賀藩の関係史料を中心とし、その他福岡県所在の史料などを対象とした。史料分析は、長崎における通詞と九州諸藩の関係について考察を加え、平成19年度にその成果を発表する予定である。本年度の研究においては近世長崎における貿易体制と通詞との関係について実証を深めることができた。一例を挙げれば、佐賀藩の史料から、同藩と幕府直轄地の長崎の地役人の一職種として捉えることができる通詞との恒常的な関係などが明らかとなった。それは佐賀藩からの経済的援助があり、一方通詞の側からはその反対給付として情報提供や長崎における代理人的存在としてトラブルの処理にあたったことなどが具体的に明らかにした。
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