平成19年度は、前年度にその存在形態の重要性を注目した、近世長崎の通詞の社会的存在形態について、より論点を深め、史料を収集するために、長崎県・佐賀県・福岡県などで調査を行った。特に、その意味については、学会報告で指摘したところである。すなわち、文化・技術の媒介項として重要な役割を果たしてきたと従来の研究が証明してきた翻訳者としての通詞は、一方で、都市労働力の編成者としての役割を果たし、さらには、密接なその縁戚関係から、貿易の実務との関係も深いことを指摘した。 また、近年日本近世史において、地域社会の研究の深化は目を見張るものがあるが、一方で、政治的枠組みからみた、設定のありかたも、無視できるものではなく、その枠組みめ中で、日本情報の受容・発信がなされていたということについても、大枠を提示できたものと考え、次年度の研究対象へつなぐ視点を獲得できた。具体的には、佐賀藩と長崎の社会との関係について注目し、長崎警備という近世を通じた佐賀藩固有の軍役負担は、一方で都市社会長崎との日常的な関係を惹起し、その仲介者として通詞や都市社会の枢要にいた町人との関係が生じており、その関係性から、ある種の日本情報、また有るときは海外からの情報が伝わっており、公的な長崎奉行-佐賀藩、すなわち幕藩関係にとどまらない、その関係性についても重要な視点となりうると考えている。
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