20年度には、論文「1941年刑法改正について-『安寧秩序二対スル罪』の新設を中心に-」を脱稿することができた。これは、19年度にほぼ完成していた1941年刑法改正の意義を論じた論文を大幅に改稿したものである。この論文においては、改正法のうち「第七章の二安寧秩序二対スル罪」(「虚偽事実流布罪」・「経済運行阻害罪]を定めた3ヶ条)の新設に焦点を当てて、その成立過程を1920年代にまで遡って明らかにした。そして、同改正には、新治安維持法・国防保安法に含まれない罪を規定することにより、両法及び既存の治安諸法を補完する役割が期待されたこと、3法の関連性を視野に入れれば1941年初頭において治安立法の再編がなされたと考えられることなどを指摘した。同論文の発表に向け努力を続けているが、現時点では未定である。 本年度には、もう一編の論文をまとめることが出来た。1940年代前半期の刑事・治安法制を考える上で、その源流・前提となったという意味で、1920年代初頭から半ばにかけての行刑制度改革構想と監獄法改正事業を見逃すことはできない。そして、この二つの動向の中心にあったのが、1922年に司法省内に設置された行刑制度調査委員会である。同委員会及び監獄法改正調査委員会(1924年発足)の活動と成果を、18・19年度に収集した一次史料を用い、これまでよりも精緻に描くことができた。この論文は近く公表する予定である。 また、1941年に刑法が改正されて後、太平洋戦争下に制定された刑事・治安法制についての調査を進展させた。それにより、1941年に再編を見た刑事・治安法制が、戦局の悪化に伴い、さらにその性格を変化させていく様相の一端を検討することができた。とくに、戦時刑事特別法(1942年3月施行)については、諸文献・関係史料を収集・整理の上、その分析を進めることができた。
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