本年度は、昨年度に考察した本所の概念を踏まえ、本所としての摂関家とその家領荘園の武士たちとの関係について検討した。摂関家領のなかでも近衛家領を主な検討対象として、近衛家領荘園に関する先行研究を収集しその内容について検討するとともに、同家領関係の史料を収集しつつ、本年度までに集めた史料に基づいて考察を行った。研究成果の概要は次のとおりである。 1.近衛家領荘園関係の先行研究 個別の近衛家領荘園について検討した先行研究は、丹波国宮田荘、出城国革嶋荘、信濃国太田荘、薩摩・大隅・日向国島津荘などの荘園に関して比較的多く蓄積されている。ここに挙げた諸荘園に関する研究の多くは、宮田荘(近衛家文書のなかに関係史料が複数存在する)に関するもの以外は、下司などの荘官や地頭を務めた家の史料に依拠している部分が少なくない。こうした個別荘園研究により、幾つかの近衛家領荘園については荘官や地頭の動向が判明する。一方、荘官や地頭と本所との関係について詳細に検討している個別荘園研究は限られる。 2.近衛家領荘園関係の史料にみえる本所 近衛家領荘園に関する史料のなかには、「本所」という記載が見えるものが幾つか確認できる。そうした史料のうち鎌倉後期の丹波国宮田荘に関する文書には、本所に違背して御家人役勤仕を望んでいる下司・公文の姿が見え、それについてはすでに先行研究で指摘されている。しかし、近衛家領諸荘園の史料を概観して注目されるのは、在地における問題発生時に本所の処置を求めている荘官も存在する点である。このように荘官に関して両様の事例が存在することに留意して、次年度の史料収集やその検討、考察を行う予定である。
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