研究概要 |
計画初年度である本年度は、荘園制の「成立と展開」のうち、「成立」にかかわる問題を中心に研究を進めた。第一に、荘園制を地方統治システムととらえる観点から先行するシステムである受領制との連続・断絶両面について、「多重的な請負構造」という特質を軸にして検討を行った。その成果は論文「藤原清廉・実遠の官物請負と受領制-十一世紀における一国統治構造の一断面-」(『日本歴史』710)として公表予定であり、本報告書執筆時点において校正段階にある。 また第二に、中世荘園制が奥羽・南九州の両<辺境>地域から成立をみるという先学の指摘をふまえ、まず南九州の巨大摂関家領島津荘を、大宰府による11世紀の外交・南九州掌握政策のなかに位置づけつつ、そこに国家中枢構成員たる摂関家による当該期日本国の国家的境界の直轄掌握という側面がみいだせることを論じ、荘園制の理解には国家権力による国土支配という観点も導入する必要があることを確認した。その成果は東北亜細亜文化学会第13回学術大会(2006年12月、於韓国・釜慶大学校)にて口頭報告したうえで、論文「摂関家領島津荘と<辺境>支配」(熊本学園大学論集『総合科学』13-2)として公表予定であり、本報告書執筆時点において印刷段階にある。 なお、計画の一環をなす日本中世史研究の成果の国際的紹介として、本年度は英国リーズ大学におけるInternational Medieval Congress 2006にて荘園制下での文書による意思疎通体系についての整理・紹介を行い、その内容は「Letters of petition of manorial community to heir lords」(The Journal of Haskins Society, Japan vol.3)として公表予定・印刷作業中である。
|