本研究では近世日本における宗門改制度の意味と役割について検討した。本研究課題は、近世を通じて、全国で、ほぼすべての人々が共通に経験した唯一の制度といえる宗門改制度が、幕藩体制の中でどのような意義を持つか分析するものである。 今年度は、近世初頭、最大のキリスト教信者が存在した九州地域を中心に資料調査を実施した。長崎歴史文化博物館をはじめ、長崎26聖人記念館(以上長崎県)、九州大学附属図書館記録資料館九州文化史研究部門、福岡市博物館(以上福岡県)、天草切支丹館、天草ロザリオ館、上田資料館(以上熊本県)、都城歴史資料館、宮崎県立図書館(以上宮崎県)、鹿児島県黎明館、鹿児島県立図書館(以上鹿児島県)、計11箇所である。また九州地域の比較研究地域として、京都府立総合資料館、愛媛県立図書館、愛媛県歴史文化博物館、岡山県記録史料館の計4箇所で調査を実施した。 対象とする資料も、これまでの研究に多くみられる文献資料のみではなく、制度に関わる道具である踏絵や宗門手札、カクレキリシタンが所持していたメダイ、十字架などのモノ資料も調査することができた。特に文化期の天草崩れに関して、上田資料館所蔵の文献資料に登場するモノ資料と、天草切支丹館、天草ロザリオ館所蔵の信仰道具との比較研究をすることができた。また踏絵やマリア観音などの信仰道具が近代以降複製されていく過程について、その背景となった遠藤周作の『沈黙』に代表される文学作品や南蛮ブームなどの社会状況について研究を進めた。
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