平成18年度は、次の課題を考察するための作業を行った。(1)1930年代の南インド・マドラス州における非バラモン運動と共産主義運動の関係、及びそれがインド国民会議派へ与えた影響。(2)インド独立が現実問題となったとき、イギリス政府がインド国内における共産主義運動の動向を国際情勢と関連づけてどのように対処しようとしたか。 具体的作業としては、イギリスにて、India Office Library所蔵の1930〜47年のマドラス州政府から在デリー・インド政庁宛ての隔週機密報告書、本国政府とインド政庁との往信を集めた各種ファイル(L/P&J/7、LIP&J/12、L/WS、R/3等)を収集することが主となった。 これらの資料分析を通じて現在までのところ明らかになったのは、以下の通りである。 (1)共産主義運動は、南インドにおいては自尊運動という同地域特有の運動と共闘していた。自尊運動は、非バラモン運動が急進化したもので、下層カーストの地位向上を目指し、ヒンドゥー教を否定し、南インドに分布するドラヴィダ系諸言語の保全を謳う多様な性格の運動であった。さらに、南インドをドラヴィダスターンとして独立させようと構想し、ムスリム連盟が唱えるパーキスターンへの支持を表明するに及んだ。これはインド国民会議派が目指す「インド民族」統一・構想と真っ向から対立するものであったため、その運動が共産主義と結びつくことにより労働者層に確固たる基盤を築いたことは、インド国民会議派への脅威となった。インド国民会議派の指導者の一人でマドラスを中心に活躍していたラージャーゴーパラーチャーリヤーが、パキスターン分離独立問題に関連して独自案を提案したのは、以上のような事情を背景とするものであった。 (2)については、現在収集した史料を分析中であり、19年度も引き続き分析作業を継続することとしたい。
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