本研究の目的は南北朝隋唐期の医事政策の意図とその形成過程をあきらかにすることにある。史料として敦煌文献中の医書をもちいるため、本年度は英国所蔵の敦煌文献の調査を行うと同時に、フランス所蔵の敦煌文献については写真をとりよせ精査した。 なお、敦煌文献は人類史的な遺産であるが、破損しやすいため、事前に大型図録本に依拠して文献選定をおこない、可能な限りの情報を把握し、必要なポイントにしぼって閲覧にのぞんだ。この事前調査に際して、所属する大学図書館にない図録本のほか、唐宋期の書籍の影印本を購入した。 なお、本補助金受理前に脱稿したため、研究発表論文として提出リストにはとりあげなかったが、「文字と紙背から見た敦煌における『新修本草』-コンピュータによる用字整理を通して」(単著、『唐代史研究』9号、56〜72頁、2006年7月)は期間中に公刊となった事前調査の成果のひとつである。また今年度の調査によって判明したことは「敦煙本『新修本草』校注初稿」(単著、『資料学研究』4号、99〜125頁、2007年3月)におおよそ集約した。 これらの事前調査、実地調査によってあらたにあきらかになったことは以下の通りである。 (1)フランスに所蔵される文献P.3714「新修本草」は従来、659年から667年の写本とされてきたが、723年から756年の写本であり、当時の敦煌における医療の実態、政権との関係を如実に示す資料である (2)現存する敦煌文献の調査から敦煌には3種の『新修本草』の写本が存在していたことが判明した。今後、その用途を単に寺院における医療活動の証左とせず、「写本の性格から」より具体的に裏付けていく必要がある。 閲覧した資料、写真から得られた知見は多数にのぼるが、今年度内では十分に報告に反映できていない。おって報告していく予定である。
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