本年度は研究課題の主要史料となる唐代の医書・本草書などを中心にフランス国立図書館が所蔵する敦煌文献の調査をおこなった。平成18年度の英国図書館にひきつづく一連の閲覧・調査によって、先行研究が見落としていたモノとしての史料のありかたに目を向ける機会を得た。 従来の研究では、敦煌文献と現存する史料との比較に重点がおかれていたが、今回の調査では紙の表裏や形に目を向け、それらがどのような状況で書写されたかを意識しながら調査をすすめた。これによって勅撰本草書が唐代の敦煌でどのように活用されたのか、その状況と知識変遷の一端にせまる手がかりをいくつか得たことは大きな収穫であった。 なお、その成果の一部は(財)東洋文庫で開かれた内陸アジア出土古文献研究会において「貝葉形「本草」考-敦煌文献からみた本草書と社会」として発表した。今後、雑誌論文として公表する準備を進めている。 また敦煌の漢文医薬書にインド医学由来の内容がみられるものがあることをあきらかにした陳明『殊方医薬-出土文書与西域医学』の書評を『西北出土文献研究』第6号た公表した。陳氏の成果はサンスクリットなど胡語又献を中心にあつかったもので、それらと同地域から発見された漢文文献にも内容的な影響がみられることを論じたものである。今後、こうした成果もふまえユーラシア史的な視点から、中国隋唐期の医術のありかた、そして制度への影響をさぐっていくものとしたい。
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