最終年度である本年度は、(1)中国山東省における現地碑刻調査、(2)これまでの収集史料の整理と分析、(3)研究成果のとりまとめと公表、以上を計画に沿った形で遂行した。 (1)昨年度購入した『中国地方志集成 : 山東府県志輯』及び本年度購入した『中国文物地図集山東分冊』、これまでに収集した石刻関連書籍の全体的な把握を踏まえ、10月に山東省中部・東部における調査を実施した。この結果、神清観(煙台市牟平区)・東鎮廟(臨胸県)等における金元碑刻史料の現状を確認し、史料情報を入手することができた。 (2)研究期間内に収集した史料、現地調査の成果を整理し、中国山東省・山西省・陜西省・甘粛省内該当地域の現存金元碑刻目録を完成させた。その上で、本課題と深く関わる碑刻の内容・形式などについて、分析・検討を行った。具体的には、文書を刻した碑刻と寺廟重修の経緯を記した碑刻との比較検討を進め、以下の成果が得られた。第一に文書内容そのものからは不明であった当該文書の紀年と由来を明らかにした。第二に、文書内容から、地域社会におけるモンゴル諸王・地方官僚・宗教勢力の相互関係を浮き彫りにした。第三に、こうした相互関係から寺廟重修という地域社会における一大イベントが実現されていく経緯を解明した。 (3)これまでの検討内容をとりまとめ、中国で開催された国際会議・学術セミナーで報告を行った。まず第一年度の検討内容を発展させ、「蒙元時期硬訳公牘文体的程式化」と題して報告した。論文が『元史論叢』第11輯に掲載される予定である。第二年度・本年度の検討内容については、「両通寧海王令旨与蒙元時期的昆〓山全真道」・「答阿里台系諸王令旨考」と題する報告を行った。 そのほか、論文「日本宛外交文書からみた大モンゴル国の文書形式の展開」においても、文書が刻された碑刻を検討した成果を十分に活用することができた。
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