本研究は、ブルゴーニュ公宮廷を基軸とする政治ネットワークの研究であり、政治エリートの集団伝記的研究であるため、何よりも宮廷参与者のデータを集積することが最大の課題である。初年度の平成18年度には、資料・文献収集の予備調査を行い、見通しの明るい成果を得ることができた。ブルゴーニュ公は、現在のフランス、ベネルクス三国、スイス、ドイツに及ぶ支配領域を有した上に、外交面でも幅広く活動したが、まず、宮廷参与者名を様々な次元に及ぶ会計記録の支出項目から抽出していく方向で、未刊行史料収集作業を行った。会計記録としては、家政収支にかかわる公および公妃宮内出納官会計簿等が存在するが、家政と一般行政とが必ずしも分化していない中世後期領邦の財政にあっては、一般行政部門の、上位から総財務収入役会計簿、南・北各総収入役会計簿、南北各バイイ管区会計簿の各会計記録に、様々な形で宮廷・家政にかかわる人件費支出が看守される。本年度は、一定程度の取捨選択を行った上で、会計記録のマイクロフィルム化・デジタル化を行った。特にサラン財務官会計簿にみられる宮廷・家政支出に注目している。今後は、これらの未刊行史料の分析を通じて、宮廷・家政関係者のリストアップ作業を行っていく。 また、宮廷政治文化にかかわる多岐にわたる文献収集も行った。宮廷・家政と政治・行政の関係史を紐解けば、洋の東西を問わないある一定の類似性が存在しており、比較参照は不可欠である。広く宮廷にかかわる建造物の保存(現存)状況や画像収集にも配慮した。物的史料は、文献史料と変わらず重要な「資料」であり、今後も引き続き収集していく予定である。諸侯外交の面では、最も有力なフランス領邦の一つであるブルターニュ公領との関係が、制度移植や婚姻関係の面で興味深い素材を提示するとの見通しを立てている。次年度には、資料・文献収集作業を継続しつつ、同時に未刊行史料の読解作業を本格的に着手し、データベース化による分析作業を行っていく予定である。
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