本研究の目的は、ブルゴーニュ公宮廷を基軸とする政治・文化ネットワークを解明することにあるが、最終年度の平成20年度は、これまでの文献・資料収集を継続するとともに、宮廷関連者のデータベース化に取り組んできた。さらに研究動向調査の結果、特にブルゴーニュ宮廷史研究のセンターである在パリ・ドイツ歴史研究所における成果がここ数年陸続と刊行され始め、予想以上に研究の進展がみられることもわかった。本年度10月には同研究所による十数年来の成果としてブルゴーニュ公宮廷関連のデータベース自体も公開され、これらについての動向報告を行うとともに、補完的な研究作業を推進してきた。公宮廷を基軸とした外交面では、特に著名な金羊毛騎士団のプロソポグラフィをもとに、公国諸地域の高級貴族を糾合するという対内的側面はもとより、普遍的な十字軍思想を背景に北方海域を通じた対外的側面(対イングランド、ブルターニュ、ポルトガル、スペイン)が重要である点を強調し、独仏間に支配領域自体は分散しているとはいえ、ブルゴーニュ公がフランス王権に対しある一定の優位を保ったことを明らかにした。また、内政面では、「政治的中心」たる公宮廷とローカル行政との間で、どのようにコミュニケーションがなされえたかについて、公国南部の「行政的中心」たるディジョン会計院の創設を事例としつつも、文書行政の「番人」として政治・行政ネットワークの形成に極めて重要な役割を果たすフランス各地の会計院全体に敷術して論じ、中世後期フランス周辺における政治文化の一端を明らかにした。なお、プロソポグラフィの方法論自体があまりわが国では周知されていないことを鑑み、関連作業として専門的な基本英文マニュアルの邦訳を行った。
|