初年度である今年度は、計画どおり前半に、1990年代以降のユダヤ人財産の返還をめぐるアメリカでの訴訟に関連する資料を収集し、これを読み込むことに力点を置いた。WestLawやLEXISといつたオンラインの法律データベースを駆使し、裁判関連の文書を集めた。これにより、いかなる形で返還訴訟が進展したか、資料的な裏づけを得ることができた。 後半は、1933年以降のユダヤ人財産の「アーリア化」に関する研究を進めた。まず、夏にドイツへ研究出張し、ヴィースバーデンのヘッセン州立文書館とミュンヘンの現代史研究所で史料収集をおこなった。ヴィースバーデンの文書館では、ナチ時代のユダヤ人の税金支払い記録や、戦後の返還裁判の記録などから、「アーリア化」とその戦後の処理の実像を得ることができた。ミュンヘンの研究所では、近年に大量に出版された「アーリア化」関連の二次文献を集中的に集めた。さらに、「ユダヤ対独物的損害請求会議」のドイツ支部代表のG.ホイベルガー氏と、同支部の顧問弁護士であるC.レー氏にフランクフルトでインタビューを行い、財産返還の現場に身をおく両氏ならではの貴重な情報を入手することができた。 2007年3月初頭には渡米し、「ユダヤ人返還継承組織(JRSO)」の代表として、戦後ドイツでユダヤ人財産の返還に深く関わったベンジャミン・B・フェレン氏とゲルトルード夫人の両者にフロリダでインタビューを行った。フェレンツ氏へのインタビューは二度目だが、今回はフェレンツ氏が1995年以降の返還請求をどのように考えているかという点を中心に聞いた。また夫人から、財産返還をめぐる1940〜50年代のドイツ体験談を聞くことができたのは、実に大きな成果であった。 全体的に、計画通りに研究を進めることができ、堅実な成果が上がっている。この研究テーマで研究書を出版予定であるが、その執筆も進んでいる。
|