研究概要 |
本研究は,現代のカムチャツカ半島先住民の経済戦略を,物質文化論的手法をとおして明らかにすることを目的としている。とくに,この地域の先住民であるエヴェン,コリャークの女性によって行われている石器をもちいた皮革加工に注目し,その道具の装備・運用方法,使用技術を民族考古学的手法を用いて復元・解析することで,文献史料からではアプローチすることが難しい先住民女性の「現代史」への接近を試みようとしている。さらにそこからソヴィエト社会主義,ポスト社会主義のなかで,先住民がいかにして自らの「伝統的」技術を主体的に位置づけてきたのか,という課題の解決をめざしている。 こうした目的のもと,平成18年度は8月にカムチャツカでの現地調査を実施し,実際に石器による皮革加工を行っている先住民の方々,もしくはその経験のある方々からの聞き取り調査を行った。同時に,可能な場合は道具も観察させていただき,スクレイパーの装備状況,作業工程による使い分け,石器刃部の使用角度,製作された皮革製品の品質などに関するデータを収集した。 また,文書館等において行政文書などの文献調査も実施し,20世紀のカムチャツカにおけるトナカイ飼育に関わる情報収集を行った。とくに,1920年代以降のコルホーズ,ソフホーズの成立・変遷とその活動内容,およびソヴィエト崩壊後のその民営化の過程について中心的に調査を行い,こうした点については一定程度明らかにすることができた。 さらに,本研究では北太平洋沿岸域における皮革加工の歴史全体も視野に入れており,本研究において開発しつつある石製スクレイパーの運動方向の推定手法は先史時代のスクレイパーにも適用可能と考えている。このことから,国立カムチャツカ大学歴史学部のA.V.プタシンスキー教授の協力を得つつ遺跡の発掘調査とこれまでに同半島や北海道などから出土した皮なめし具についての分析も併せて行った。
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