平成18年度は、以下の点を中心に研究を実施した。 1.まず、本研究課題を進めるに際して、関連するこれまでの調査や研究成果の取りまとめを行った。平成18年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費、課題番号:185153)の交付をうけて、『近世日本の地図と測量-村と「廻り検地」』と題する書籍を刊行した。この取りまとめの作業を進めていく際に残された課題がより具体的に示されることとなった。 2.上記1に記した課題のひとつへの取り組みとして、地方の藩による近世後期の地図作成事業の調査を実施した。具体的には、文化文政期に藩領内の実測図を作製した肥後藩を素材に調査を実施した。熊本県立図書館における資料調査によって、測量作業に関わった人物の来歴の多くが明らかとなった。また、近世後期における八代湾の干拓事業が、こうした測量技術の導入のひとつの契機となっているということも明らかとなった。 3.近世大坂の地図を素材に、これまであまり検討されて来なかった作製技術について、町絵師との関わりから検討を試みた。その調査分析を通じて、御用絵図師として活躍する人物が大坂の板行図の作製に深く関わっていることが明らかとなった。これは、これまで全く指摘されてこなかった点である。この成果は「近世の大阪の地図に関するノート」と題して研究雑誌に報告した。 4.上記3を進めていく過程で、近世大坂の地図に関する新たな研究課題が浮上してきた。手書きの大坂の地図を素材とした研究である。その多くは行政用の地図であるが、それらの調査はこれまでほとんど実施されていない。このうち大坂三郷町絵図と呼ばれる資料群の調査成果について報告(「近世の大阪の地図に関するノート」)した。
|