今年度は、パリにおけるメガ・イヴェント招致と不衛生住宅事業について研究を行った。そのために、平成19年8月末〜9月と平成20年2月〜3月にかけて2-3週間の現地調査・資料収集を行った。 イヴェント招致については、都市に対して国家に資本投入を行わせることが目的となっている。パリでは常に歴史を喚起する形で招致活動が展開されるために、政治的イヴェントにもなりやすいはずだが、パリでは過去3回オリンピック招致に失敗している。しかし、オリンピック招致のために検討された都市開発は、3回とも別の形で実現している。結果として、メガ・イヴェント招致活動は、市が都市整備を行う口実としてのみ機能している。それが都市においていかなる意味を持っているかは今後の検討課題だが、比較的近い時期のオリンピック招致計画が別々の敷地を提案していることには、市の都市整備をめぐる思想が現れているはずである。 また、不衛生住宅事業については、戦前の事業が現在また姿を現したのではなく、都市としては19世紀から一貫して行ってきたことがわかってきた。戦前と現在の共通点は、そこに国家が介入していることである。双方にはっきりした移民の姿があることが、その介入を福祉的なものではなく、選別的な思想に基づくものと思わせる。これについても、もう少し現地調査が必要になってきた。 現在は、特に後者の結果をもとに、博士論文の骨格を作る作業を行っている。また、今年8月に迫ったチュニジア学会での発表と、11月の出版計画にも後者を用いる予定である。 今年度は学会発表・論文刊行は行わなかったが、本研究の成果の一つとして、平成20年4月にパリの景観に関する学部生向けのテキストに寄稿した文章が出版される予定である。
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