今年度は、研究期間の最初の年に当たるため、場所・景観の「文化ポリティクス」に関する内外の文献・論文を精読し、基本的な論点をまとめるとともに、言説分析に関わるおおよその枠組みをつくりあげることに時間を費やした。これまでに科研費を使用して蓄積してきた成果を、今年度の研究に資する視座としてまとめたのが加藤政洋・大城直樹編『都市空間の地理学』(ミネルヴァ書房)であり、今後の研究の理論的枠組みや着想が示されている。 一方、戦災都市--東京・名古屋・岐阜・大阪・神戸・那覇--について、戦災地図、復興計画地図、復興計画・都市計画に関する書類などのほか、新聞記事や雑誌記事をも含むその他の関連する資料の収集を進めた。今後の事例研究に向けて、とりわけ有意義な資料を得られたのは、東京と岐阜、そして那覇である。まず、東京については、都庁から流出したと思われる「後楽園裏バラック」のクリアランスをめぐる一連の資料を入手した。これについては、すでにデータベース化を終了し、研究協力者とともに論文の作成にとりかかっている。次いで、岐阜についてであるが、二つの特殊飲食店街--金津園・国際園--の移転問題に関して入手の見込みのある資料は、新聞記事を中心にほぼ全部の資料の複写を終了した。那覇については、1970年までの必要な新聞記事をすべて入手しており、あとは本土復帰後までの資料を残すのみとなっている。この三都市については、おおまかな分析を終え、論文の執筆に取り掛かっており、次年度に研究成果を発表できる見込みとなった。
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