本研究の目的は、昭和戦後期の都市政策のなかで生み出された、さまざまな場所とその景観の社会的・地理的性格を検討することを通じ、都市の復興(再建)ならびにそれにつづく新たな都市建設に固有の理念と空間的論理を明らかにすることにあった。本研究で対象とする場所ならびに景観は、戦災都市の食料品市場(自由市場、闇市など)、スクウォッター地区(引揚者の集住地区)、そして特殊飲食店街などであり、いずれも敗戦後の都市空間に空隙を縫うようにして形成された場所である。 平成20年度は研究期間の最終年度にあたるため、前年度まで調査・研究の過程で絞り込んだ東京・那覇それぞれの対象地区に関する総括を行なった。すなわち、東京における露店マーケットの解体と代替施設の提供問題、そして那覇市における歓楽街の設置問題である。まず、東京の露店街であるが、昭和26年以降、代替施設(主として会館)の建設場所を提供することで、急速に解体が進んだ。それは、都市の「病的現象」であるとして、公共性の高い空間からの排除を意味したのである。次いで、那覇の「歓楽街」設置問題については、当時の都市建設という地理的文脈のなかで施設の布置をめぐる議論のなかで惹起されたことを明らかにした。まさに、都市の空間プランニングと場所のポリティクスとが交差した問題であり、辻という具体的な場所の構築を通じて、都市建設をつきうごかす力学の一端を明らかにした点に意義があるものと思われる。なお、岐阜市における引揚者マーケットの移転問題については、前年度に成果をまとめている。
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