3年間の総括を行うため、学会発表及び出版作業に従事した。日本文化人類学会および別予算を用いて国際極北社会科学会議で発表すると共に、多くの研究成果が出版された。7月に中国・昆明市で予定されていた国際人類学民族学世界大会は、主催者の都合で一年間の延期となり、参加を取りやめることとなった。 成果となった出版は以下の通りである。第一にシベリア先住民の家畜預託と家計経済についての民族誌的記述は、市場化のなかで先住民の伝統文化が柔軟に対応し新たな社会経済領域を生成させていることを実証的に報告し、またその経済的取引が合理的なものであることを論証した点は、従来のシベリア先住民の社会経済戦略が生存戦略であると指摘されていたのに対し、新知見を示すことになった。また今年度は脱社会主義下のなかでのサハの文化的アイデンティティと結びついた男性性がいかなる形で生成されているかその過程の特質を明らかにした。シベリア民族誌研究においてジエンダー研究とりわけ男性性についての研究はほとんど手が付けられておらず今後の展開が期待される領域である。また、本プロジェクトの調査のなかでフィールドワークを行ったエヴェンキ人の牧畜から狩猟への生業転換の背景についての研究ノートをまとめた。この報告は家畜預託とは直接関係しないが、市場経済化のなかの先住民の生産活動を、気候変動の影響と合わせて論じたものであり、今後のさらなる展開が求められる領域を切り開くことができた。
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