活発な人々の移動によって拡大すトランスナショナルな社会空間が、どのような差異性と共同性によって構成されているのかという問題を、フィリピン・マニラ首都圏の事例を通して考察した。19年度は、理諭的文献の整理と同時に、フイールドワークによる一次質料の収集努めた。 特に現地調査においては、都市部ミドルクラス・プロフエッショナルによる「差異化.卓越化としての移動」と、他方では都市下層人々の「受難としての移動」という2つの社会階層ごとに極めて対照的奉意味を持つ移動の経験に関し、インタビュー調査を行つた。グローバル・ビレッジヤボストナショナル・コミュニティが描くグローバル市民社会の均一性とは対照的に、トランスナショナルな社会空間は人々によってしばしば対照的な意味を付与され、経験される。そのような社会空間に作用てるグローバルな権力関係の下に、社会階層の差異化と断片化が進行する。しかしその一方で、そのような差異性と断片性を内包しつつも階層間において共同性の生成が可能であるすれば、それはどのような形で見出すことが出来るのだろうか。特に、市民社会をNGOやその他各セクターの組織と同一視し実体論的に捉える立場に立たない場合、諸階層聞の社会的ネットワークの状況依存的な切り替えによって生成する社会空間としての共同性はいかなる事例の中に見出すことができるであろうか。このような問いは、近年の社会科学の諸領域において活発に議論される市民社会論や公共圏の議論に対して、ローカルかつミクロな民族誌的デーダに基づいた人類学的視点かちのオルターナティブを提示しうるという意味で重要である。来年度はさらに集約的なフィリビンにおける現地調査に基づいてこの点を考察し、成果をまとめる予定である。
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