今年度は、徳教の東南アジア伝播、組織的展開と徳教団休の活動状況に関して、マレーシア、シンガポールにおいて現地調査と資料収集を行った。マレーシアでは、南部のクアラルンプール、ジョホール州における紫系徳教団体の展開、活動状況に関する現地調査を行った。北部のペナン州、ペラ州、ケタ州において、振系徳教団体を中心に調査を行った。シンガポールでは、徳教団体の活動状況を体的に把握したほか、潮州から渡った徳教の長老にインタビューし、初期シンガポール、マレーシア両地域における徳教組織の展開状況、その後の政治分離に伴う独自の展開、そして近年の新たな連携関係の構築について聞き取り調査を行った。 その結果、徳教の教団的展開の状況、主な活動、華人社会における位置づけなどについて把握することができた。徳教団体は、扶鸞という神託を得る活動や世俗的サービスの提供を中心活動としており、教団の教化システムの整備や教理の深化に力点を置いていない。そのため、徳教団体は、厳格な意味でいう宗教教団と一般の華人アソシエーションの中間に位置するものであるという位置付けが浮かび上がってきた。一方、組織的発展に従い、教団のイデオロギーをめぐる各種の論争や葛藤が浮上し、その中で宗教理論化に向かう教団の変化が見られ始めた。今年度の調査では、教団のイデオロギーや理論化をめぐって、徳教聨誼会、ペナンの徳教会紫雲閣、シンガポールの徳教団体という三者の主張、それぞれの目指す方向を明らかにすることができた。しかし、徳教展開の方向をめぐって、様々な言説が存在し、そこでコンセンサスを得るのは必ずしも容易なことではないという現状がある。今後、こうした錯綜とした言説を、徳教をめぐる社会状況、人々の日常生活の実践とを結び付けて、さらに考察を深めていくことを日指す。
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