本研究は、エスニック・マイノリティが民族的ナショナリズムを形成するプロセスにおいてミス・コンテストが果たした役割について照準をあてつつ、システマティックな研究を行うことによってナショナリズムとジェンダーについての文化人類学的研究をおこなうものである。 米国南西砂漠地帯に位置するナヴァホ・インディアン社会では、1970年代に圧倒的な強さをもってアングロ系主流社会の文化的価値観が流入してきた。そのような「白人の文化」に対抗し、民族独自の文化的価値観を守るため、伝統文化を前面に押し出した行事が奨励されるようになった。ミス・コンテストにおいては、自分たちの民族性を代表する知性と教養、伝統文化への知識を兼ね備えた「理想的」な女性を選ぶことによって、ナヴァホのエスニシティが強化されていったのである。そのプロセスの中で、女性の「容姿」は重要な審査項目ではなくなり、主流社会で見られるような「西洋的」な女性美が披露される場ではなくなったのである。 本年度の現地調査では、ミス・ナヴァホ・ネイションの審査項目の中で、最も難易度が高く、最もナヴァホの民族的独自性が高い「羊の屠殺と解体」が、1991年のミス・コンテストで初めて導入された、きわめて「新しい」審査項目であることを確認した。この発見によって、ナヴァホのミス・コンテストに、民族独自の文化的価値観を前面に押し出した審査項目が導入されたのが最近になってからであることが明らかとなった。つまり、「美人コンテスト」として始まったナヴァホのミス・コンテストが、近年の伝統文化復興運動の活発化の影響を強く受けてナヴァホの民族性の高いインベントとして再定義され、民族的ナショナリズムを強化していく役割の一端をになうことになったのである。
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