研究概要 |
本研究がおもな調査対象地域とする関東地方において,越後杜氏は昭和50年代から次第に出稼ぎ先を南部杜氏に奪われ,現在までにほとんどいなくなっている。そこで,今年度はまず,越後杜氏がまだ関東地方で主要な酒造労働の担い手であった昭和40年代の資料調査に力を入れた。この作業によって,各酒造家にどこの市町村の越後杜氏が何人働いていたかという基礎的なデータが集まりつつある。 次に,酒造技術の普及方法に関する歴史的変化を明らかにするため,入間市博物館所蔵の友野家文書と上越市所蔵の坂口家収集資料を中心として,近現代の技術指導や講習会,品評会,原料,仕込み配合などに関する史料を閲覧・整理した。また,これに関連して参考となる組合史や組合資料,技術指導書なども収集した。 さらに,酒蔵の構造や宿泊施設の状態,酒造道具についても,建築士の協力を得ながら調査をおこなった。これまで,酒蔵の構造と酒造労働の関係についてはあまり注目されてこなかったが,酒蔵の構造はフォークリフトの移動範囲や製造工程との合理・不合理性を規定し,したがって酒造労働の負担の大小に大きく関わる。また,生活水準が向上した現代において,酒蔵内の宿泊施設は労働力の確保を左右する。今年度の調査により,酒蔵の構造と設備投資の重要性があらためて浮き彫りとなった。
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