1.研究の目的 本研究課題では具体的に、日本帝国の植民地行政機関だった樺太庁が強制集住を意図して樺太アイヌに沿岸の免許制漁場を設定し、そこからの収益を先住民政策費とした経緯を明らかにした上で、樺太アイヌの漁業活動および社会を考察する。さらに、樺太アイヌが日本の戸籍を取得した経緯もあって、1945年以降、故地であるはずのサハリンをほぼ全員が離れたことは看過できない事象であり、樺太庁の政策が樺太アイヌ社会に大きな影響を及ぼした結果だと考えている。したがって、本研究は一民族集団の動向を左右した日本帝国統治期に焦点を当て、政策およびその影響について明らかにすることを目的とする。 2.平成19年度の研究実施内容 (1)史料調査 前年度に引き続き、ロシア国立極東歴史文書館(在ウラジオストク)において史料調査をおこなった。ロシア帝国統治期(およそ1917年以前)のサハリン関係資料が所蔵されており、サハリン先住民に関する法整備をおこなうための予備調査にかかる文書資料が残されている。日露戦争によって全く実行されなかったが、これは、直後の日本帝国統治期における樺太アイヌの社会を考察する上で大きな意味を持つ。今年度も調査を継続し、資料の内容を報告する予定である。その他、国内の図書館において当該期の新聞資料を中心に調査した。 (2)国内インタビュー調査 現在、国内で暮らす樺太アイヌの人びとにインタビューをおこなった。アジア・太平洋戦争以前のサハリンでの生活体験を持つ人が60歳代後半以上と限られてきており、その人びとへのインタビューは緊急を要する。本年度も継続して、プライバシーに配慮しながらインタビューをおこなう予定である。
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